MPラッフェルは、英国のMGが1950〜53年に製作したTシリーズ・ミジェットの中でも有名なTDのレプリカ車。英国トラディショナルのオープン・2シーター・ボディはFRPで作られている。オリジナルと異なるのは右左に三角窓風の固定ウインドーがあることで、ボディ・デザインの基本は忠実にコピーされている。ラッフェルはサンパウロ郊外に工場を持ち、約100人ちょっとの労働者が月産50台の生産を行っている。

クラシカルな英国オープン・エア・モータリングの再現
 

幌は簡単に折り畳むことが可能で、この車の最大の楽しみであるオープン・エア・ドライビングは爽快。

　MPラッフェルは、1950年から53年まで、3万台以上も生産されたイギリスのスポーツカーの大傑作、MG-TDをコピーしたブラジル特有のレプリカ車である。
　オールFRPのボディは、クラシカルなMGのイメージをうまく再現させ、仕上がり具合も大変良い。車重も800kgとTDに近く、ホイールベースも2400mm と原型とほぼ同じにし、部分々々の寸法や曲率も極力オリジナルに忠実であるよう努力の跡がうかがえる。
　特に前部はなかなかの出来で、狭いウインドー越しに見えるボンネットや、フェンダー、ヘッドライト、ノーズの景色はTDそのものだ。ブラジル・VW社で、いまも製造が続けられているビートルのBA型空冷水平対向エンジンを、本来ガソリンタンクを背負う場所に収納している結果、このMPはRR機構なのである。
 

VWビートルでもなじみ深い空冷の水平対向4気筒エンジンがリアに収まる。ソレックスのツインキャブを装備して60ps／4600rpm、12kg-m／2600rpmのパワーを発生する。

　エンジンは1.6Lの60ps／4600rpm（SAE）で、エミッション対策として、3元触媒装置が付加されたものだ。エンジン・レスの長いフードの中は、そっくりカーゴスペースになる。丈夫なトランク（ボンネット？）フードを開けると、スポーツカーとしては異例の大容量空間があり、スペアタイヤを搭載してもまだゴルフバッグぐらいは優に入る。40名人り燃料タンクもここにある。カーゴスペースは、この他にも本物のMG同様シート後部にもあるので、前後合わせれば、並みの乗用車に負けない収納力を持つ不思議なスポーツカーだ。
　フロントのラジエターグリルや、サイドのルーバーは当然ながらダミーである。後方開きに改められたドアには、サイドカーテンならぬ分厚いガラスが入り、巻き上げ式ではなく、手で押し下げたり引き上げたりする苦心作である。このサイドウインドーは、フルオープン時にはリアクォーターのウインドーと共に、まるごと引き抜くことができ、その気になれば、MG同様のフロントウインドーも前に倒し、風圧を直接受けながらのビンテージ式モータリングも楽しめる。

　シートレベルはやけに高い。皮製のシートにはリクライニング装置もつくが、トップを装着して乗車するとヘッドクリアランスが苦しく、狭いウインドシールドからの視界は悪化する。MPでは、真冬でも昔ながらにフルオープンで乗るべきだろう。
　ダッシユボードの形状は、両パッセンジャーの前が盛り上げられた、MG独特の形を継承している。小径ハンドルにはやはり時代差を感じざるをえないが、パネル上の完全アナログ式メーター類も、セオリー通りのレイアウトであるのは嬉しい。
　ペダル類やトランスミッションも、リンケージを含めてVWのままだから、シフトフィーリングもックラッチの踏みごたえも、ビートルそのままである。もちろん4速のギア比もVWと変わりはない。
　VWのパーツは合理的にMPの構造物に移植されている。大きなところでは、前後のサスペンションがあげられる。ワーゲン・オリジナルのトーションバー式4輪インデペンデントが、ガラ空きのフロントフェンダー内に収まる姿はなんともユーモラスだ。

　乗り心地はビートルよりずっと固くセットされており、MG-TDと変わらないほどである。ステアリングもVW用のウォーム＆ローラー式で、オイルダンパーのアシストが付く。多少アンダー気味だが、切れ味やレスポンスはVWそのままの鋭い手ごたえだ。最小回転半径は5.5mと大きいので、小回りはむずかしい。
　空冷独特のエンジン音を後方で聞くのは妙な気分だが、クラシックの雰囲気を味わいながら、結構実用的に乗れるMPは、なかなかどうして楽しい味わいをドライバーに与えてくれる。